もう随分以前になるが、顔を知っていて話をしたことくらいはあるが、決して友達ではない、いや、お友達にもなりたくないという人のお話を。

その人は自分に対し、フランクに自身の家族のことを話し始めた。

見かけは普通。

いや普通でもないな。

少しガタイ大き目、天パー、少しだけ薄毛、銀縁メガネに細い目で演劇好きの、いわゆるアイドルのオタク風な見た目の人だった。

美しく、また優しく、よく気も利く舞台女優の妻、生まれたばかりの可愛い子供、やりがいのある省庁での公的な仕事。

流暢というか立て板に水というか、淀みもなく、人が聞いたら羨むような自身の幸せを聞かせてくる。

ただし、それらの話は全て作り話、というか全くのウソ。

自分も最初に会った際に上記のようなことをとうとうと語られたのだが、後に彼を知る人間に話したら、またそういう事を言っているの?と笑われた。

いったい、その自身の幸せ自慢ホラ話がなんの得になるのか存知上げないのだが、そもそも子供どころか未婚で、彼の脳内の妻は単に自身がファンであるという舞台女優さんで、さらに公的な仕事も、道でゴミを集めていたのを見かけたという人の話もある。

確かに公的な仕事なのかも知れないが。

彼の古くからの知人によると、どうも頭の中がお花畑というか、初見に人に対してドリーマーになり、自身の妄想を真実のように語ってしまう癖があるらしい。

本人が相手と初見ではない事を忘れてしまった場合には、何度も同じ話を聞かせれるという。

彼の頭の中の細君も愛娘も、頭の中でちゃんと年を取っていき、普通に家庭内トラブルも起したりするから又面倒くさい。

つまり、話の辻褄が合うのだ。

詐欺師の中には自分の虚言を本当に信じてしまって喋る輩がいるらしい。

本当だと思って喋っているので、そりゃ何も知らない他人は騙される。

彼は詐欺師の才能があったのかもしれないな。

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